華麗なる加齢

生きるを楽しむ

言霊✨

「ふたりはねぇ 晩年いいよー」

 

31歳冬

子宮外妊娠で緊急手術、入院した。

2人部屋にはもう1人

年配の女性がいた。

その人…Yさんは末期の子宮体癌で入院中だった。

ふくよかな身体つきのYさんはいつも華やかな花柄のパジャマを着てとても明るくて、そんな大病を患っているようには見えなかった。

付き添う旦那様は上品ないつもスーツを着た細くて優しい感じの人だった。

検査か何かでYさんが不在の時

「去年まではね、よく旅行に行ったりして元気だったんですよ」

「長い間、不正出血があったのに…もっと早く病院に連れてくれば良かった」

独り言のように遠い目をして私に話してくれた。

やっぱりほんとに大変な状態なんだ

だけど、どう答えればいいのかわからない私

 

Yさんは自分の方が辛いはずなのに

手術後で痛くてベッドサイドにあるお水も取れない私の面倒をみてくれたり昼間は穏やかに話しをしたりしていた。

だけど夜になると何度もよく点滴台を引きずってトイレに走って行っては吐いていた。

その後ろ姿のパジャマのお尻部分はいつも真っ赤な血がついていたのを覚えている。

 

ある日、相方が来ていた時

何をしていたか忘れてしまったけど、

「ふたりはねぇ 晩年いいよー」

ってYさんが突然言った。

部屋中に響きわたるその言葉に

晩年?って…?

まだ、夫婦ではなかった私たちは

そうですかー?って曖昧な返事をして笑った。

 

12月の半ば

Yさんは急に外出届を出して自宅へ帰った。

そして

「どうしてもおせち料理が作りたくて帰らせてもらったのよ〜」

って言って私にもタッパーに詰めてきたおせち料理を食べさせてくれた。

今ごろー?って正直思ったけど、その必死な姿を見て何も言えなかった。

Yさんは自分の分も詰めてきてたけど結局ひと口も食べることは出来なかった。

その日を境に急に容体が悪くなっていった。

 

日に日に快方に向かう私と

日に日に命の終わりに向かうYさん

1つの部屋に2つのベッド…

あまりにつらくて食べれなくなって眠れなくなって、年末に無理矢理退院させてもらった。

 

年が明けて、やっぱりご挨拶しようと病室を訪ねたけど

そこにはもう誰もいなかった。

 

その数ヶ月後…

私と相方は夫婦となり

29年

ほんとは奇跡なんだけど、当たり前のように目が覚めて、食べて、お仕事して、遊んで、眠って…

あーだこーだと言いながら毎日を生きている。

 

もう正確な名前もちゃんとしたお顔も思い出せないけど…

私たちははっきりと貴女の言葉は覚えている。

そして、年齢を重ねるほど何度もYさんの声が聴こえてくるようになった。

 

「ふたりはねぇ 晩年いいよー」

 

今月、私は還暦を迎える。

いつから晩年なのかな?

毎日をもっともっと大切に生きよう。

今がきっと晩年だよね。

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